告知義務の判例 期間はある?(売買)
何度かお話をしたことのある「事故物件」の中で最も知られているものは「告知義務」だと思います。
今回は事故物件についての「告知義務」についてお話します。
居住者が何らかの理由で死亡した場合には次の居住者に必ず告知をしなければならない。それが告知義務の内容だと理解している方も多いでしょう。
前提として、事故物件を告知する義務は「居住者が何らかの理由で死亡したから」ではなく「入居の可否を判断する意思決定を左右する上で重要な瑕疵を伝える必要がある」ことからから事故の事実を伝えなければならないとされています。
宅地建物取引業法第47条第1項では「相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」を「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」と定義されており、「死亡の事実を伝えることが必要」なのではなく、「判断に重要な影響を与える事実を伝える必要がある」ということが分かります。
心理的瑕疵に関する告知をせずに、契約成立後に瑕疵が発見されると訴訟に発展するリスクがあります。
売買契約の場合、居住を目的とした住宅で絞首自殺があった事実を告知せず、事件から6年経験した物件を売買した事案があります。この場合、居住目的という点から心理的瑕疵の程度が大きいと判断されて、買主の損害賠償請求が認められています。
別の判例では、8年9ヶ月前に他殺が疑われる死亡事件があったマンションを事件について秘匿して販売した売主に対して、告知義務違反にあたるとして買主の契約解除と違約金請求が認められています。
一方、8年前に焼身自殺があった住宅を更地にして、駐車場として使用されていた土地を宅地として販売した後で買主から告知義務違反の提訴がなされたものの、事件の影響がみられないことから売主の瑕疵は無いとして訴えが棄却されました。
土地や建物の売買の場合、心理的瑕疵が不動産価格に与える影響が大きいことから他の告知義務に比べるとより瑕疵が認められやすい場合があります。
例えば、農山村地帯における殺人事件の現場となった物件、事件について広く知られている物件の場合は事件から約50年を経たとしても説明するべきと判断され、告知を怠った売主が告知義務違反となった判例も存在しています。
最後に、、、心理的瑕疵に時効はありません。一度事故が発生すると「居住者が死亡した」という事実は残ります。事実をどう判断するかは借主・買主が判断することなので、告知をしないことは事故が発生してから年月が経過していたとしてもリスクになります。
不動産売買の場合は、金額が大きくなることから契約後に瑕疵が発覚すると売主がその損害を担保する必要があります。ただし、物理的な瑕疵であれば修理できますが心理的な瑕疵は修理できません。
最悪の場合は「こんな所に住むことはできない」と退去し、退去費用や新居の購入費用の請求や損害賠償請求を受けてしまう可能性があります。